死生学とは

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死生学とは、死にまつわる現象を対象として、その考察や解明を通して生を捉えなおす学問である。それは実践的であり、学際的で実存的な特徴を持つとされる。


この定義で、第一に確認すべき点は、「生にまつわる現象に注目した過程や結果として間接的に死に注目するのではない」ということである。「死にまつわる現象に注目する」点からの出発であり、生はあくまでも死への照準から逆照射的に捉えられるものである。

生への照準から死を捉えるのであれば、これまでも哲学や倫理学、社会学や心理学、そして医学などの学問が指向してきた。死生学という新しい学問分野の誕生を待つまでもないともいえる。

第二には、死のみに照準し考究するのではなく、死と生を密接に関連しあった対とみなしている点である。そして両者を同じ比重で重視し、現代社会における私的な死の囲い込みとその裏腹である生への過剰な価値づけを問い直すものである。



宗教と死生観

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「人はなぜ死ななければならないのか」「最後は死で終わる人生の中で、人は何をめざして何のために生きるのか」といった根本的な問いは、人間が自己意識をもつようになって以来、あらゆる時にあらゆる場所で問われ続けてきた。知識の蓄積と科学技術の進歩は、経験的・合理的な理解。制御の射程を格段に広げてきたが、「死」をめぐる問いの前に無力であることは、現代人も先史時代人もほとんど変わりがないものと思われる。

宗教はこうした問いに答えを与え、人々の不安を鎮めることで大きな役割を果たしてきた。説得力のある死生観を提示することは、宗教にとって不可欠の使命であった。しかしそれは人々に安心と慰めを与えるいっぽう、時として荒唐無稽な偽りの答えによって人々を惑わすものと批判されたり、現実の社会問題から目を逸らさせる「アヘン」(マルクス)として指弾されたりすることにもなった。現実の宗教組織が政治的、経済的な影響力を獲得するにつれ、本来の死生観や信念と矛盾する行動をとることも多かった。

今日の世界を見わたすと、先進地域の多くの国々で宗教離れの傾向が指摘されるいっぽう、イスラム圏などでは昔ながらの宗教的熱情をもち続けこれに従って行動する人々が多数あり、宗教をめぐる事情は地域と文化によってさまざまである。しかしどの地域においても、人々の死生観に対して宗教が与えてきた影響はきわめて大きなものであったし、今日でも宗教の影響を考慮せずに死生観を語ることは不可能に近い。

宗教と無縁の生活を送っているように見える現代人も、意識しないところでそうした影響にさらされているものである。自分自身を取り巻くさまざまな宗教の影響を見直してみることは、死生観について考えていくためのよい糸口になるものと思われる。



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